練習をサボり、ウソをつき、怒られ、涙し、反省し……、そして忘れる。

以前紹介したウソつきなボクサー「渡久地 辰優(とぐち たつひろ)」。(※前回記事→)

その渡久地選手(スターロードジム所属)が出場する、ボクシング東日本新人王決勝戦を取材した。約1カ月半前の準決勝の試合を取材し、この選手の不思議な魅力に、興味を抱いたからだ。

新人王はボクサーにとって、一つの勲章である。新人王を獲得し、世界まで行った有名チャンピオンは多い。古くは、ファイティング原田、ガッツ石松、輪島功一、渡嘉敷勝男、鬼塚勝也、竹原慎二、飯田覚士、畑山隆則、徳山昌守、内藤大助といったそうそうたる顔ぶれが並ぶ。また、そのことをボクシングファンも知っているため、普通の4回戦ボクサーの試合ではなかなか観客で埋まらない後楽園ホールも、この日は入口から列を成すほどの観客で賑わっていた。


試合前の控室では、トレーナーにバンテージを巻かれ、サプリメントを接取する渡久地選手の姿があった。今日は、表情も引き締まっている。前の試合を取材した感じとは、少し違った。

「この一カ月の練習では、ウソはついてませんか?」と尋ねると、「はい! ついてないです!」と即答。「緊張はめちゃくちゃしてます!」と言うものの、たまにスタッフと談笑するなど、前回の試合よりもリラックスしているようだ。

鳥海義仁会長に仕上がりを尋ねると、「仕上がりは大丈夫ですよ!」とのこと。

続けて、今日の戦略を聞いてみると、「戦略は無し! 普通にいけばなんとかなる! 一番の敵は弱気ですよ。いつもは弱気で、練習の1割しか出ない。いつもは、走ってないからね。あっちが痛えとか、こっちが痛えとか…。でも、今回は十分走ってきたから、大丈夫! 弱気はダメだからな。強気だからな!」と、太鼓判を押しながらも、試合になると弱気の部分が顔を覘く姿勢を注意。

その後、試合前のミット打ちでは、どんどんアップの調子を上げ、ボディプロテクターの上から、お腹に思い切り左ボディを打ち込み、「うわっ! 効いたー! これはちょっと…、誰か代わってくれ!」と会長を唸らせてみせた。

画像2: ウソつきなボクサー。渡久地 辰優(#2)
画像3: ウソつきなボクサー。渡久地 辰優(#2)
画像4: ウソつきなボクサー。渡久地 辰優(#2)

仕上がりはバッチリだ。そして、いざ試合へ。

画像5: ウソつきなボクサー。渡久地 辰優(#2)

11月13日(日)東日本新人王決勝ライトフライ級4回戦(48.9kg)
郡司勇也(帝拳ジム)vs渡久地辰優(スターロードジム)

1ラウンドは、左フックからの右ストレートが当たり、渡久地選手が優勢。2ラウンド以降は、渡久地選手のパンチだけでなく、相手のパンチも当たり出し、どちらが優勢かは徐々に分からなくなる展開。ラウンド終盤に、渡久地選手が相手を追い詰め、会場も渡久地コールがこだまする。その後は、両者ショートレンジで終始打ち合う展開。しかし、至近距離のなかでも、両者勝ちたいという意欲が感じられ、クリンチのない本当の打ち合いだけが展開された。全身全霊を捧げ、試合を戦い抜いた両者の結果は、判定勝負となった。観ている者としては、非常に見応えのある試合だったと思う。

画像6: ウソつきなボクサー。渡久地 辰優(#2)

結果は、ドローであった。(判定は1-1) 

東日本新人王戦の特別ルールとして、ジャッジの三氏には、採点の結果が、同点・イーブンとなった場合、総合的に優勢と見たどちらか一方の選手に優勢点を付けることが義務付けられている。その優勢点を採用し、新人王を決定するのである。

一人目は39-37、赤、郡司。
二人目は38-39、青、渡久地。
そして、三人目のジャッジは、38-38、優勢点は、赤、郡司。

残念ながら、渡久地は東日本新人王には輝くことはできなかった。ホントちょっとの差だ。公式結果はあくまで“引き分け”だが…。知らない観客からも「勝ってたよ」と声をかけられたくらい、ホントにホントに僅かな差での引き分けだった。

竹内トレーナー曰く、「ホント惜しかった! 相手の距離、ショートレンジで打ち合ってしまった。自分の距離で、ミドルレンジで戦えれば…」と口にした。

画像7: ウソつきなボクサー。渡久地 辰優(#2)

また、鳥海会長は、「力みがあったね。たぶん、1ラウンドで過信してしまったじゃないか。勝てると思って…。力が入ってるから、当たらないんだよ。でも、疲れちゃったからね、スタミナだ。試合前に食えなかったから。食事が大事だよ。でも、相手が相当練習していたね。何度もグラついて効いているシーンがあったのに、相手がタフだった。今回は辰優も練習していたけど…」と、相手の選手の健闘を褒め称えた。

負けてはいない。

ドローだし、公式記録も引き分けだ。

ただ、獲りたかった東日本新人王の栄冠は手にできなかった。

「ホント悔しいのひと言ですね」と渡久地選手。

そして、「今は何をしたい?」と尋ねてみた。「とりあえず休んで…」と言うだろうと思っていたら、「ホント悔しいです。この悔しさを、次の試合に活かせればなと。早く試合をしたい」と答えてくれた。

1ヵ月半前に初めて会った19歳の少年は、技術も身体も、しゃべり方も、ずいぶんと成長していた。まさに別人のようである。それは、若さゆえ、いや、手にした自信ゆえのものなのだろう。次の試合でも観るときも、きっと成長していることだろう。


後で、鳥海会長と話すと、「全くできなかったね。相手を見ちゃって、勝てるなと。だから倒そうと力んで…。でも、あんだけ力んで、よく4ラウンドもったなと。…、まあ、食事を間違えているよ。ちゃんと守ってないし! 一番大事なのは食事! 食事がホントいいかげん! 普通だったら、今回もファイトマネー無し!」と辛口のコメントだった。渡久地辰優、まだまだノビシロがあるようだ。(ゆるすぽ編集部)


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