前回に引き続き、2016年1月24日に開催されたイベント【「もしイノ」「すごラボ」コラボ ~テーマはイノベーション~ in代官山】の模様をお届けいたします。

第2回は、岩崎さん主導で上田さんとの対談を行ないます。

画像1: プロ野球で唯一R&Dを保有

プロ野球で唯一R&Dを保有

上田顕(以下、上田):皆さんこんにちは。はじめまして、楽天野球球団チーム戦略室の室長をしている上田顕(うえだ・あきら)と申します。簡単に自己紹介と、球団の紹介をします。私はプロフィールに書いている通り、大学卒業後に銀行へ行き、コンサルティング会社に行って、イーグルスに2012年から来ております。大学で非常勤講師もやったりしています。

弊社の紹介から。楽天野球団は、楽天グループの100%子会社です。野球をやるための会社です。われわれの会社が掲げている理念は、「感動を与える」ことです。その理念の元、3つのミッションを持っています。「強いチームを作る」「健全経営をする」「東北の球団として地域密着を意識する」です。この3つが、われわれが迷った時の指針です。ウチの球団はご存知の通り2年連続最下位ですが、お客さんはどんどん増えています。年間70試合くらいありますが、毎試合平均2万1000人以上の方に来て頂いています。

去年も過去最高を更新しているので、ビジネスはうまくいっています。私の仕事と連動して、あまりプロ野球をご存知ない方向けにプロ野球が年間こんな動きですという話をさせていただきます。キャンプインしてあっという間に開幕して、順位が見えてきて、CSに行けるか、日本シリーズに行けるかと言っている裏側でドラフトの動きをして。そこから編成が始まり契約更改があってシーズンが終わる。そうこうしているうちにまた来年になる、という繰り返しの仕事をしています。私は主に、この様なチームマネジメント全般の仕事に携わっています。

選手や監督・コーチ・フロントスタッフ・経営陣との間で仕事をすることが私の立ち位置です。2012年の8月に弊社の新社長として立花陽三が就任しました。社長がオーナーから言われたのが「優勝すること」と、もう一つは「黒字化すること」。今まで赤字だったので、その2つを言われました。

黒字化については、とにかくマーケットの拡大・開拓を通じて売上を伸ばすことを球団として考えました。もう一つは「日本一になる」ことです。今までなぜ楽天イーグルスが勝てていなかったかということを客観的に分析して方向性を出しました。その過程で現在私のいるチーム戦略室という部署が立ち上がり、主観データに加えて客観的なデータも交えて情報を分析し、業務を回していくということをこれまで以上に組織として強く意識するようになりました。

今日は『イノベーション』というテーマですので、私の部署が一番関わると思いますが、球団の簡単な組織図はこのような構成です(組織図を見せる)。われわれ野球のオペレーションって、意外とシンプルで、選手を取って育てて配置して、評価してまた育てるという流れです。その業務プロセスを考える上で、大きく全体の戦略がしっかりしていること、業務を回す上での基盤を作る仕事が重要になると考えています。

私の部署ではあらゆる野球のデータを取得・分析し現場での活用を促進するということが主要な業務になっています。今までとは違うやり方でシステムを構築したり、アジアでどこもやっていなかったデータを取得したりとか、色々な分析をしております。2016年シーズンからスコアラー部隊も戦略室と同じ組織になりました。本日、資料は勿論お見せできませんが、毎日ベンチに入って監督・コーチや選手と作戦を考えたりする部隊や日々他チームの情報を偵察に行っている部隊です。

また、今日のイノベーションのテーマに近い話ですが、2014年途中から立ち上げたR&Dという部隊が戦略室の中にあります。他の業界をご存知の方は、なるほどと思うかもしれませんが、プロ野球の組織でR&Dを持っているのは日本でウチだけかなと。ここで何をやっているかというと、一旦前提を忘れて今までにない野球の先端技術・知見を研究し、現場に応用できるものを産み出して、一勝でも多くの勝利に貢献できる仕事をしよう、というようなことです。

野球とデータテクノロジーで言うと、昔は大体手書きでデータを取っていて、そのうち電子版が登場し、その後に映像が組み合わさって、そして今日紹介するトラッキングデータが出て来て。そういう変遷で、どんどん進化していくと思います。

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『トラックマン』導入がもたらす革命

上田:先ほどの秦さんのお話にも近いのですが、われわれの球団は世界レベルで言うとまだまだ小さいビジネスなので、海外の話や他業界の話を聞いたりしています。今お話したトラッキングデータについてですが、『トラックマン』というのは楽天イーグルスがアジアで一番最初に導入したものです。ここから取得できるデータで、これまで分からなかったことが分かるようになりました。どんなことがわかるのかというと、例えばですが、ボールの球速だけでなく回転数や、ボールをリリースした瞬間にボールがプレートから何センチの高さ・幅で離れたとか、バッターが打った時の打球のスピードだったり、どれくらい飛んだかという様な内容です

これがまさにテクノロジーの進化で、こういうことが起きるようになると、今まで見えないものが見えるようになってきた。例えば野球関係者の方はわかると思いますが、今まで人が感覚でポチポチ入力していたどの高さ・コースに投げられたかという情報が、今ではレーダーで自動的に座標が取れるようになりました。この凄さは、皆さん分かる方は分かって頂けるかと思います。こういう概念を常に持って仕事していまして、テクノロジーで今まで見えなかったものが見えるようになったり、そうすると新しい常識が生まれます。

ウチの球場で大谷翔平選手が投げた時のデータの例ですが、156キロのストレートがありました。「大谷選手のストレートがスゴイ」のは分かります。じゃあ、何がどうスゴイのかというのは、今まで球速以外は主にキレがある・伸びている等の主観情報がメインとなっていました。しかし、トラックマンの技術が入ってきたことで「今のストレートは横に●●センチ曲がっていて、●●センチくらいホップした」という話ができるようになりました。これは革命的なことです。こういうデータが出てくると、色々な常識が変わってきます。

他にも色々なデータがありますが、ほとんどの投手が投げるストレートは必ずシュート回転しています。少年野球やアマチュアの世界でシュート回転しているとコーチに怒られたりした経験がおありの方もいると思います。「ボールがシュートしているから、真っ直ぐ投げろ」と。でも、純粋な真っ直ぐのボールを投げている人って、そもそもほとんどいないのです。そうなるとシュート回転するのは当たり前なので別にいいのではないかという風に、常識が変わったりし得る、一例ですが、こういうことがあります。 

最後に、データは何も数字だけのことを言うのではでなく、主観的なものも立派なデータです。他の業界でも主観的なデータと客観的なデータをしっかり組み合わせて分析をしていると思います。私はそもそも、データや分析云々以前の問題で「何がしたいの?」とかそういうことをしっかり定めてやることが重要と考えています。分析というのはあくまで物事を進める時のフレームの中の一つのプロセスとして意識した方が良いと思っています。われわれは2年連続最下位ですが、もう一回日本一を目指してやっています。2016年は球場には観覧車ができたり、公園が出来たりこれまでにないエンターテイメントをお見せできると思います。球団の興行面でも、色々なイノベーションをやっています。ぜひスタジアムに見に来て頂ければと思います。長くなりましたが以上で終わります。 

――ありがとうございました。引き続き、岩崎さん主導で上田さんとの対談を行ないます。

ファンを作る=「スタッフを最大化する」

岩崎:今お話を伺っていて面白いと思ったのは、楽天はシンプルな2つのミッションがあると。「黒字化」と「勝利」ということ。何が面白いかというと、昨年2つのミッションのうち一つは大成功して、一つは大失敗している。2つのことが同時に行なわれている、ユニークだなと。お聞きしたいのは、6位最下位というのは予想されていたことなのでしょうか?

上田:よくメディアにも聞かれる話ですね。客観的なシナリオとしては、もちろん持っていました。日本一になるのは正直、簡単にはいかないというのもわかっていました。最下位は十分あり得ると。

岩崎:実はドラッカーはイノベーションの機会として、失敗を重視しています。予期せぬ失敗と言って、予期していたことと違うことが起きることが、一番のイノベーションのヒントになる。昨年6位は予想から外れたのかな? と思ったら、ちゃんとシナリオもあった。これはすごい、さすがだと思いました。逆に、予期していなかったことはありますか?

上田:一つはケガですね。予期せぬ事態でケガ人が続出しました。その要因が大きかったことと、見込んでいた戦力が予想通りいかなかったことです。

岩崎:外国人が働かないというのは、昔から繰り返し行なわれていることですよね。楽天野球団として、上田さんとして、改善の余地や制度はあるんでしょうか?

上田:われわれが3年前に優勝した時は、外国人がヒットして優勝しました。その後、2年連続で上手くいかなかった。当然「なんでだ?」ということを検証しないといけないので、詳しくはお話しできませんが、そういう検証をして、次に取る時に活かします。われわれはどこに問題があるのかを決めて、改善をしなければなりません。

岩崎:来年の外国人選手も関わってくるので深くお話できないと思いますが、もう少し前に戻って、上田さんがスポーツマネジメント、業界に入ったきっかけをお願いします。

上田:先ほどの秦さんの話とは違って、私の場合はスポーツマネジメントが産業としてそこそこ出来上がっていた時期の学生です。大学の時に将来今の仕事をやろうという目標を作りました。岩崎さんがおっしゃったように、それまでは野球ばっかの人生だったので全然ビジネスを知らない。なので、全然違う業界に行きました。とはいえ、ゴールだけは決めていました。機を見て飛び込んだわけです。

岩崎:新しい世代といえば新しい世代ですね。もっと遡って野球をやられていたとのことですが、何がきっかけでスポーツマネジメントに興味を持ったんですか?

上田:スポーツマネジメントをやった理由はシンプルで、野球をやっている以上は選手としてやりたい。とはいえ、どこかで限界が来る。どうにかして関わりたい。ということでスポーツビジネスをやってみようと思ったという経緯ですね。

岩崎:今お話にもありましたが、みんなスポーツは「やるもの」と思っています。やるものと思っている人が、元選手だった人や、この中にも実際にやっている人もいると思いますが、実際に選手としての限界が来たりケガだったりもあると思います。スポーツをやらなくなったり、できなくなったりした時に、やらないからそこのスポーツから離れる。そういう方も多いと思います。なかなか離れがたかったり、野球に魅力を感じている。もっとスポーツに携わりたいと思う人が多いはずです。

面白いのは、スポーツをやっている方だけじゃない。スポーツは必ずしもやるだけじゃない。そこに携わる魅力があると思います。上田さんは野球をやっていたとのことですが、野球をやらなくても携わる魅力はどういうところにありますか?

上田:これもシンプルで、先ほどの球団の考えにも出ていますが、感動だと思います。あれを体感するとやみつきになる。私も大学の時バイトで働いていたことがあって、その時にプロスポーツってこんなにも感動するんだなって。最高なのは、3年前に日本一になった時、あれを経験すると抜けられないというのがあります。

岩崎:今すごく大事なことを伺ったと思います。実は僕の『もしドラ』の新しい方のテーマは、感動を最大化しようと思ったんです。たとえば高校野球なら選手が携わっていて、9人しか同時に出られない。高校野球だと18人のベンチ入りメンバー。部員で言えば100人くらい、もっと多いこともあったりします。その部員が携わっている、所属しているチームが勝つと感動を味わえる。あるいはその学校の所属であると感動を味わえる。

外にいるほど感動は薄れていきますよね。同じ街でも感動するとは思いますが。たとえば今年の夏東海大相模が優勝した時、僕には何の感動も訪れなかった。シンプルな話で立場が近ければ近いほど感動する人は多くなる。感動の質が大きくなる。そこに携わる人を増やしていけば、感動する人が増えるのでは? というのがテーマでした。野球部や野球球団でも選手だけと考えると、先ほど申し上げたように9人や18人という限られた人数しか感動できない。

でも裏方も含めたスタッフが感動できるとなると、その人数がもっと増える。ファンという考え方もありますが、こんな言い方は失礼ですが、ファンとスタッフだったらスタッフの方が嬉しいと思います。楽天のファンよりもスタッフの方が優勝した時、喜んでいると思います。そういう形でもしかしたらファンを作るというのは、スタッフを最大化することなのかなと前から僕は思っていました。ファンも、ある種のスタッフ化してしまう。そのことによって、ファンがより喜ぶようなことができるんではないかと思います。その考えはいかがでしょう?

上田:まさにそういうことを思っていまして、球場に行くとほんとにいろんなスタッフが働いています。彼ら彼女らがいかに楽しく仕事できるか、いかに誇りを持ってもらうか。そうでないと、ディズニーランドもそうかもしれませんが、本当にお客さんに楽しみが伝わらない。特にエンターテインメント産業なので、スタッフの満足度を上げるのは会社においても大きな施策です。

「この人、マジだな」が伝わる環境

岩崎:プロ野球は、非常に長い歴史を持っています。約80年ですね、巨人と阪神ができてから(編集部註:巨人は1934年、阪神は1935年創設)。実は、日本の経済とも密接に関わっている。かなり独特なガラパゴスな状況だった。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、新聞社の販売拡張戦略の中で、プロスポーツチームを持っていると、販売価値になるわけです。ジャイアンツは正力松太郎さんの時代、読売新聞の経営基盤がどんどん拡大していき、栄えていった。そういうところから、いつの間にか「プロ野球球団は黒字でなくてもいい」という不文律があった。暗黙の了解というか。

セ・リーグの球団はいいけど、パ・リーグの球団は昔の川崎球場とか藤井寺球場とか、人数を数えることができると。数えてみたら30人だったとか、5万人入るところでそんなレベルだった。プロ野球ニュースを見ていると、選手だけ映していてもおもしろくないので、ライトスタンドでキスしているカップルを映したりとか、カメラマンも暇つぶししていた、みたいな時代が長く続いていました。

日本の経済状況も変わってくる中で、ホリエモンとかがゴタゴタして、その後に楽天野球団が生まれた。三木谷さんは古い経済界とは袂を分かって、スポーツ業界にもまったく新しいマネジメントを持ち込もうとしている。新しいビジネススキームを持ち込もうとしている。そこで上田さんの部署も生まれたと思うのですが、プロ野球界は80年という長い歴史があるので、新しいものが入ってくるとなかなか大変だと思うのです。そういったところで、どういった形でマネジメント組織や新しい取り組みをしていったのか教えて下さい。

上田:この野球界の中で仕事を進めて行く上で、コミュニケーション方法には特に気を付けて臨機応変に使い分けています。営業に近いと思いますが、われわれは考え方や分析結果・示唆などアウトプットを商品として売っている様なものです。ですので売り方には、気をつけています。せっかく研究して出ている良いものがあるので、監督・コーチ・選手・フロント・経営陣と上手くコミュニケーションを取れる様な雰囲気を醸成することを意識しております。

どうやったら現場に浸透させることができるか、というのを考えて仕事しています。当然意見の違いというのは起きることはありますが、ある程度は仕方ないと思っています。ただ、ウチの監督・コーチ・選手・フロントスタッフはみな所謂オープンマインドを持ってくれているので、意見交換し易い環境だと思います。

岩崎:星野監督の元で彼が成し遂げたことが無かった日本一を楽天はやった。その成功要因は何だったんでしょうか?

上田:勿論田中将大というのも大きな要因と思いますが、全員が同じゴールで一気に進んでいったということも要因の一つとしてあると思います。ウチの立花が社長として就任した時に、彼は「来たからには日本一に絶対なる。」と言っていました。ウチの球団が日本一を目指すのだ、というのを社員も含めて、選手・監督・コーチ全員が本気でその目標を持ったというのが大きかったと思います。

岩崎:日本一の目標を持つことができたのは、立花さんのパッションですか、彼なりの上手いやり方はあったんでしょうか。

上田:社長のパッションだと思います。「心の底から言っている、この人マジだな」というのが伝わってくる。こういうものがいかに組織に浸透するかが重要だと思います。

岩崎:秦さんや上田さんのお話を聞いて、情熱という言葉が出てきますね。マネジメントや数字とかいろんなものがあるにせよ、最後に人を動かすのは情熱なのかなって思います。情熱くらい自分で持っているって言うかもしれませんが、持っているだけではダメなんです。それを表現して相手に伝えるということが大事なんですよね。星野さんもそうだと思いますし、立花社長もそうだと思いますが、情熱の出し方が上手い。そこがエンターテインメント産業に繋がるのかな。

僕も長年マネジメントとかエンターテインメントに携わってきて、人を動かすとか組織やグループをドライブさせていくリーダーは何か? を考えてきました。他者との関係の中で、他者の心に火をつけるのが抜群に上手い。どうやったら、体系的に計画的に出せるのか。日本人のマネージャーはそこが弱くて、パッションを個人の能力に頼っている。組織的・体系的に導くところまで行っていない。そこを計画的にみんなのパッションを出し合えるようなチームの作り方ができれば、違ったフェーズが訪れるのかなと思います。

上田:そうですね、まさにパッションだと思います。私がよく言うのはゴール設定だと思います。しっかり目標を決めるという行為の経験値を、どれだけ積んでいるか、非常に重要だと思います。それを社長だけじゃなくて、部長も含め管理職だけじゃなくて、すべての社員が同じ行動プロセスを取れると、その組織は強い。あとは、方向性がバラバラにならなければ、ビジネスというのは総和なので、今までやったことがない大きなことをやるには、そういうエネルギーが必要だと思います。

分析において、他球団に先んじる戦略

岩崎:今お話になった目標設定にもテクニックがあります。目標設定が下手な人というのは、簡単に達成できる目標や、絶対に達成できない目標のバランスが悪い。目標は達成できるかできないかギリギリの微妙なラインがある。そのラインをうまく設定しないと、組織も個人もドライブしていかない。

ギリギリに設定するためにはどうすればよいか。孫子の兵法じゃないですが、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」です。まずは状況を知る。自分の実力がどこまであるか。あるいは相手や社内の状況はどこにあるか。上田さんがやられていることも、恐らくそういうことなのかなと。楽天という球団がどれくらいのポテンシャルを持ち、パ・リーグの他球団、セ・リーグを含めた12球団、どこまでポテンシャルを持っていてどういう状況にあるのかを分析する。分析において、他の球団より先んじるというのが楽天の一つの戦略ですよね?

上田:まさに、自己分析能力が重要だと思っています。他球団と楽天では本当にどれくらい差があるのか、そういうところをしっかり分析することと思います。それが無いと、次の戦う手段の決まりようがないと考えています。

岩崎:三木谷さんの2つのミッションじゃないですが、野球のライバルは比較的簡単に他球団になると思います。チームの運営というか黒字化において、楽天がライバル視していたり目標にしている球団ってありますか?

上田:メジャーには、ウチの社員も見に行ったりしますし、私も仕事で毎年行っています。新しいテクノロジーを見たり、毎試合満員の球場を視察して、何故上手くいってるのかということを考えたりですかね。われわれは持ち帰って速攻でやるカルチャーなので、そういう取り組みをどんどん応用したりしていると思います。

岩崎:具体的にはどの球団ですか?

上田:特定のところはないです。例えばビッグクラブであるレッドソックスやヤンキースやジャイアンツ等も見たりします。そこから新しい発想が出てきたりします。

岩崎:今の話にも出てきましたがはっきり言ってしまうと、僕が言うのは失礼かもしれませんが、日本が遅れているんですよね。アメリカの方が確実に進んでいる。ボルチモアという街がワシントンとニューヨークの間くらいにあります。そこの球場に行くと、外野スタンドの目の前にブルペンがあります。そこで、リリーバーがピッチング練習をしています。金網も無い。3メートルくらい下のところで、リリーバーがピッチングしている。

その近さでプロの本気のピッチング練習が見られるのと、テレビで見るのは違うじゃないですか。それだけでエンターテインメントなんですよね。そこで8回か9回に行くと流れができる。見られているのって、日本人の選手だと「見世物じゃないんだ」って嫌がる人もいるかもしれませんが、そこら辺の共有の仕方とか、大リーグは選手もプロの意識がしっかりしている。そういう球場を作り変えるのは一つのエンターテインメントとして大きな要素だと思います。先ほど観覧車の話がありましたが、他にもリニューアルで見どころはありますか?

上田:ウチの球団は、毎年工事しています。2016年は先ほどお見せした観覧車や公園を作ります。それ自体が新しくて、球場の中に公園があって、一般のお客さんが公園に遊びに行く感覚で来て頂ける。これは画期的なところがあって、野球を見に行くという価値体験だけじゃなくて、違うものが提供できる。そういうところを見てほしいと思います。

岩崎:アミューズメントパーク、夢の国というとアレですが、異空間の体験をするところですよね。今のお話を伺っていてもそうですが、野球に限らずスポーツは、必ず三方のつながりがある。簡単に言うと客商売ですよね。客商売で特にエンターテインメント産業である。エンターテインメント産業の中でもスポーツの果たしている役割は大きい。映画産業やアミューズメント産業は必ずしも拡大している路線ではない。

そういう中でスポーツ産業が年々拡大していると。そういう中でスポーツが人を呼ぶのか。スポーツが人に与える感動は何か。お客さんは何にお金を払っているのかが、イノベーションのヒントになると思います。東北という土地で、さっきのデータにもあったように年々観客動員数が増えている。喜ぶ人が増えている。何がお客さんの満足なのか、どこに焦点を当てて、イノベーションや新しい戦略を打ち出していますか?

「こんなに面白いものがあるなんて」の創造

上田:東北にはプロ野球がなかったので、こういう価値体験を経験する機会がなかったのかなと思います。われわれが優勝した時に、潜在的なお客さんが急にファンになって頂いて。皆さんお客さんも恐らく、今までこんなに感動したことがないのではないかって。そう色々な人が仰ってくれるのです。「こんなに面白いものが世の中にあるなんて知らなかった」と。今もその感動を求めて、来てもらっていると思います。われわれもプレッシャーで、どんどんクオリティを上げないとお客さんに飽きられてしまいます。今までの野球観戦スタイルだと、ウチのお客さんに満足してもらえないのかなと、思っています。

岩崎:面白いのは、日本の企業において東北は、野球不毛の地だったんですね。僕も取り上げたように、全体的な野球文化には高校野球があって、なぜか東北は勝てない。去年はすごく勝ちましたが、優勝は強いチームが持っていく。手に入れたかというところまでいったが、勝てない。そういうところで、楽天がジンクスを打ち破る形で優勝した。それは大きな感動だったんじゃないかな。お客さんというものは、そこに文化が無いからと言って、当てはまらないということじゃない。

むしろ文化が無いからこそ、新しいものとして受け入れてくれる。広がっていく可能性がある。そういうのを証明したのが楽天じゃないかなと。そろそろ時間も近づいてきたので、楽天の今後のビジョンや方向性を話せる範囲で。こういう価値を打ち出したい、こういうふうに野球界を変えていきたい計画があれば、お願いします。

上田:われわれの球団は「新しいことをやろう」というカルチャーがあります。データ周りの取り組みで私がやっていることもその一つですが、負けていても世の中から「楽天さんはどういうことをやっているのですか?」と聞かれるようになっていると思います。今私たちの球団がやっているモデル、これをメジャーリーグにも負けないレベルに持って行こうと思っています。メジャーの方と話す機会があるのですが、逆に聞かれることも多いですね。

プロスポーツのマネジメントの最先端をいくのが一つの目指すところだと思います。ただ、プロスポーツなので勝たないといけません。結果も伴ってビジネスとチームの両輪のマネジメントが上手く回る様になったら、本当に面白くなると思います。 

岩崎:その両輪は五分五分ですか?

上田:優勝したからというわけではないですが、やはりプロスポーツは勝たないといけないと思います。ここ2年連続最下位だと、仮に良いことをやっていたとしても「結果が出てないではないか」と評価されてしまいます。どっちかというと、特に私はチームマネジメントを回さなくてはならない立場なのでチームの結果に比重を置かないといけません。世の中に貢献するために、やっぱり勝っていくのが一番重要だと思います。当然両方大事なのですが。

岩崎:「強くなる」というのはスポーツに欠かせない本質ですね。勝つということを勉強しないといけないんですね。今日はありがとうございました! 

――ありがとうございました。第3回では、菊池教泰さんを交えたパネルディスカッションをお届けします。

<第3回へつづく>

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