2016年1月24日に開催されたイベント【「もしイノ」「すごラボ」コラボ ~テーマはイノベーション~ in代官山】の模様を3回に渡りお届けいたします。

こちらのイベントは、小村大樹氏(NPO法人スポーツ業界おしごとラボ・理事長)が展開するイベント「すごトーク」と、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら」通称“もしイノ”の著者・岩崎夏海氏による「イノベーション」をテーマにしたコラボイベント。当日は学生含め80人以上の聴衆が集まり、会場となったTheatre CYBIRD(シアターサイバード)は活気に溢れていました。

登壇者は岩崎氏(「もしドラ」著者)のほか、秦英之氏(レピュコムジャパン社長)、上田顕氏(楽天野球団チーム戦略室長)、菊池教泰氏(認知科学に基づくコーチングをベースとしたこころの教育家)といった豪華な顔ぶれ。

画像: 巨大な隕石(2020年東京五輪)が落ちてきた

第1回は、岩崎氏がナビゲーターとなった秦氏との対談をお届けいたします。

巨大な隕石(2020年東京五輪)が落ちてきた

岩崎夏海(以下、岩崎):皆さん、こんにちは。僕は、『もしドラ』を書いた岩崎と申します。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが『もしドラ』も『もしイノ』も、高校野球をテーマにして、チームをどうマネジメントするかを書いています。

今回ここに呼んでいただいたのは、イノベーションというテーマで語るということです。ここにいらっしゃる方は、将来スポーツ業界で働きたいという方も多いと思います。先ほど司会の小村さんからご紹介いただいたように、スポーツ業界は今は拡大の一途で様々なビジネスが生まれています。そんな中でも、単に大きくなっているだけでなく、変化が訪れています。変化というのは、大きな業界なんだけれどもまだまだ未成熟なので、うまくいかないことも多い。FIFAスキャンダルのような問題も噴出する。

あれは氷山の一角みたいなもので、悪いことをしているのがすべてではないでしょうが、未成熟な部分がある。未成熟なまま巨大化して、今なお巨大化している。そこには、社会的なビジネスや法律の整理が必要です。そこを担う人材が求められています。成長産業なので、参入する人は多いです。新しいスポーツ業界をもっと良い形で発展させてくれる人材が、求められています。そういう人材を育成するお手伝いを上田さんだったり秦さんだったり、ここにいる方々が担っていく。

それと同時に、仲間を求めます。皆さんがスポーツ業界に参画して新しいイノベーションを起こしてくれるなら、ウェルカムだということでこういうイベントがあると思います。まずは最初に秦さんに伺いたいのは、スポーツ業界の現場があります。何が変わったのか、現場レベルでここ数年で一番感じていることは何でしょうか? 大雑把な質問で恐縮ですが、教えて頂ければと思います。

秦英之(以下、秦):業界的には、1990年代中盤に最初の流れがきました。一つは、野茂選手の大リーグ挑戦です。日本のプロ野球選手がアメリカに行くようになり、アメリカのスポーツビジネスの専門家が入ってきた。それが一つ。もう一つは、2002年のワールドカップ誘致の成功です。Jリーグ発足も付随し、欧米的なプロ興行の発想が入ってきました。その頃からスポーツビジネスに興味が出始めて、アマチュア型で育ってきた競技や関係者の間で「このままではマズい」と変革が起こりはじめた。それが第1フェーズです。

今はそこからさらに加速して、巨大な隕石が落ちてきた。それが、2020年東京オリンピックです。これからは少子化で経済が減速し、企業の業績悪化も含め、改善やイノベーションを求められる考え方ができている。業界そのものが大きく変革している時期だと感じています。

岩崎:大きな流れとして、「アマチュアからプロフェッショナルへ」という流れがあるということですね。オリンピックは今でこそ選手が当たり前に参加していますが、若い方はご存知ないかもしれませんが、アマチュアリズムがあって、プロ選手は参加してはいけないという時代が長くありました。そこにおける、プロとアマチュアの違いは何か。いまいち境界がはっきりせず、曖昧になっています。徐々にプロ化が進行し、今ではプロが当たり前になっています。スポーツはお祭り的な聖域なところでプロ化が阻まれていたんですが、門戸が開かれ、現代においては非常に大きなビジネスだということがわかってきました。ワールドカップ、オリンピック、ラグビーの順ですかね。

世界3大スポーツの祭典と言われています。それとは別に、アメリカでは大きなスポーツビジネスがある。日本でもプロ野球、Jリーグといろんなプロスポーツがある。どんどんその範囲が拡大しています。『アマチュアリズム』という文脈があるなかで、スポーツビジネスが進行していく。秦さんがおっしゃったように、少子化は日本の経済に大きく関係していく。日本の経済は日本単体で成り立っているわけではなく、世界との関わりで成り立っています。世界経済の中でスポーツが担う役割が大きくなっています。経済というとお金儲けみたいに聞こえるところもありますが、それとは別に生活の基盤を築く、活性化した産業がないと社会がうまく回りません。

いろいろ衰退する産業も勃興する産業もある中、ITは20世紀最初にはなかったのですが、今は世界の中心的な産業になっています。スポーツ業界も20世紀当初には影も形もなかったのが、急激に拡大して21世紀には大きな役割を担っています。ビジネスとスポーツの融合をどう果たすかが、一番大きなトピックなのではないかと。秦さんもその役割を果たそうというところがありますよね?

秦:よく使う事例があります。昔は、本屋さんのスポーツセクションに、自分の管轄している出版物を真っ先に置いてもらって、どう多くの人に見てもらうか、どこに置いたらいいだろうと考える時代でした。スポーツセクションの隣ではたくさんの女性がファッション誌を読み、旅行セクションや小説セクションにもいたりする。そこをどうやって広げていくか。その考え方をすることで、パイも大きくなっていきました。

今は本屋そのもの、商店街そのものに人が来なくなっています。今までの方程式が通用しなくなっています。Amazonや楽天にはニーズがあって、売れています。彼らが悪いわけではなく、世の中のニーズが変わっているわけです。ここに、イノベーションの機会があります。ギャップの存在、ニーズの存在、産業がどう変わるか、人口構造がどう変わっていくか。それらをいかにシンプルに考えるか。現場にヒントがあります。シンプルに考え、純粋な心を持ち、どう対応していくか。それが重要なポイントだと思います。

岩崎:秦さんのお話を聞くと、スポーツ業界もそうですが、全世界的にあらゆる産業が変化の波にさらされている。若い方はご存知ないかもしれませんが、変化というのはそうそう起こるものではありません。たとえば、日本での最近の大きな変化というと終戦直後、70年前に起きたものです。それに匹敵する変化が、70年ぶりくらいに訪れています。今回の変化は70年前のように急激に起こるのではなく、だらだらと起き、長く続いている。そんな変化のまっただ中にいる。その変革を抜きにして、スポーツ業界を語れないということですね。皆さんがこうやってスポーツ業界に関心をお持ちだと思いますが、これも大きな変化です。

秦氏が感じた“チャンスの目”

岩崎:皆さんご自身ご存知ないと思いますが、スポーツ業界は昔はあってないようなものでした。それを志望する人がいなかった。例えばトレーナーになる人は、プロ野球選手を目指していたけど脱出したとか。プロ野球球団に入るのにも、読売新聞に入って新聞記者になりたかったのに、なぜかわからないけど巨人軍に配属された人がやっていたとか。要は、「たまたま」なる職業だったんですね、プロスポーツ業界は。今の時代になって、人が志望して入るようになった。学生の頃から、専門の勉強をするようになった。大きな変化です。

秦さんはまだ旧世界の人間というか、元々志して入った人間ではないですよね? 学生時代に勉強した、という方でもないと思います。前の業界から今の業界に移ってきた、ソニーで携わったことがきっかけとおっしゃっていました。そこに何か魅力を感じたからこそ、スポーツ業界に入られたのだと思います。その決意があれば、お願いします。

秦:小さい頃はスポーツをやっていたり指導をしたりと、スポーツに深く関わっていました。社会人になってからはソニーにサラリーマンで入社し、日々業務を行なっていました。(スポーツ業界に入った)きっかけは、当時一緒に仕事したエンジニアの方が、とにかく熱意を持って、命をかけて商品開発する姿を目の当たりにしたことです。扱っていた商品は、リチウムイオン電池。「たかが電池、されど電池」とよく言うんですが、電池は部品でしかないのに彼らの熱意は尋常じゃない。彼らと毎日接しているうちに感銘を受け、「自分がこういった思いを持ってできることは、何だろう」と。

当時の仕事を卑下したりサボっていたつもりはまったくないのですが、言葉に表わせない「自分にしか感じ得ない情熱はないのか?」と考えた時、小さい頃にプレーしていたスポーツ、そのスポーツに対してはあるんじゃないか? と考えました。当時はネットも少し普及していたので、スポーツビジネスについて自分で調べたり、人と会ったり。大きな転換期が来た時期ですね。

岩崎:子どもの頃はスポーツに携わっておられたけど、その頃のスポーツ業界はまだ大きくもなく、形成もされてなかった。違う形で社会に出るうちに、スポーツ業界が成立しつつあった。そこで自分も何か力を発揮できるんじゃないか。そういう思いで行ったと。

いい大人になると、転職するにも勇気が必要です。もっと言うと、何らかの“勝機”が必要なんですね。勝機というのは、「自分だったらここでやれるんじゃないか?」もっと言えば「勝てるんじゃないか?」という“チャンスの目”を感じていないと。むやみやたらに、若者に「当たって砕けろ」とはできない。秦さんも自分も、ここで力を発揮できるんじゃないかという思いがあったと思うんです。その“チャンスの目”は何だったんでしょうか?

秦:いくつかあります。たまたま社会人で(アメリカンフットボールを)プレーした時の最終戦、会場がガラガラだったんです。これまで歴史的に満員だったのが、ガラガラ。頑張ってきた立場、選手としての思いとして、「満員の会場で、ご褒美を頂きたい」という思いがどこかにありました。「なんで人が集まらなかったんだろう」と。運営上の課題もそうですが、そこに至るまでのスポーツ業界自体の課題があります。「人に頼っている場合じゃない。アクションを起こすなら、自分でやろう!」と思ったのが、一つのきっかけになりました。スポーツ産業に入るのは、やっぱりアンテナが大事ですね。きっかけを作るために人と会ったり、チャンスを求めていく。そうすると、何かしらきっかけはできますよね。

ボランティアから入ったり、バイトから入ったり、何かきっかけを作るのが重要です。アンテナ感度をいかに張っているか。迷ったらやっていかないと、後悔だけが積み上がっていきます。「チャンスだ」と思ったら、何がなんでもやってみる。未だに忘れられない言葉は、業界の方々の集まりに顔を出すようになった時です。その当時のJリーグの選手会の会長ですね。

彼が言ったのは「アンディね、こんだけスポーツのことが好きなら、入らない方がいいよ、辞めた方がいいよ」って。その時、正直「何言ってるの?」と思ったんですけど、よくよく考えたら第三者から何かを言われて辞めるようなら、所詮そんなものだと。人になんと言われようと、やってやるんだという志が必要です。思いがあれば、答えが無い時代だからこそ、答えを作っていけるチャンスだと感じています。

岩崎:面白いですね。今の話を聞いていると、2つのことが同時に行なわれていますね。1つは、準備。単に闇雲に突っ込んでいったのではなく、いろんなきっかけを作りながら、スポーツの現場に顔を出したり深く食い込んでいった。そういう機会を自ら積極的に作って、可能な限りリサーチする。リサーチしても、出ない答えは出ないんです。世の中に100%はないので、細部がわからない。最後の最後のひと押しの勇気。人事を尽くして天命を待つ。準備をしたあとで最後はサイコロを投げて、運命を天に任せる。この2つが、同時に大事なんですね。一つしか持っていない人が多いんです。

画像: 秦氏が感じた“チャンスの目”

数字の裏付けがないと相手にも失礼になる

岩崎:準備ばっかりして、行動を起こさない人がいる。その一方で、何の準備もしていないのに飛び込んで行く人もいる。皆さんもスポーツ業界に進むのであれば、準備と勇気を2つ持ち合わせることが必要です。実際に秦さんは業界に飛び込んで何年かやっていて、実績も積んでいると思います。これからのスポーツ界の展望、果たして行きたい役割、未来へのビジョンを聞かせてください。

秦:私の仕事面でいうと、日本の場合、企業が財源を一番持っています。企業の方々に、スポーツを最適に使えるツールとノウハウ、知見を蓄積していくことですね。それが数字だったり、経験も含めて、買っていけるものも含めて最大限活用するために、今回のオリンピックやラグビーの波を抑えないようできるだけ世界のノウハウを検証したり、作っていく。

中長期的に言うと、日本は東京、フランスはパリ、イギリスはロンドンという時代がありました。これからはスポーツにもよくあるように、ニューヨークはヤンキース、ボストンにはレッドソックス、カンザスシティにはロイヤルズ。競技によって地域性があります。地域と地域、地方と地方をどうつなげて、新しい需要と価値を作っていくか。ドライブするにはスポーツ、文化、芸術もあります。スポーツにはすごい力があるので、そこに持って行きたいというのがあります。

岩崎:お伺いしていると、スポーツ業界は単にスポーツのことだけを勉強していたのでは成り立たないですね。今のお話で言うと、企業との関わり、スポンサーがソニーなのか銀行なのか家電業界なのか。スポーツ業界をスポンサードしてくれる企業が、どういう目的でどういう経済活動を行なっているか。経済の状況を把握しなければいけません。彼らがどういうお金の稼ぎ方をし、使い方をしているか。それを把握していないと、秦さんの事業も成り立ちません。経済のことを、基礎的な知識として学ばなければならない。文化としてのスポーツだと思うんです。人々の文化としてのスポーツとの関わりだと思います。

地域は人間が作るものなので、その人間がその地域に対してどういう思いを抱いているか。その思いを果たすような役割をスポーツが担っている。そのお手伝いを、秦さんがする。人間あるいは文化・歴史みたいなものを理解していないと、地方に行ってもうまく話が通じない、まとまらない。スポーツをするには、単にスポーツに詳しいだけでなく、他の知識を結び合わせるのが重要なのかなと。大変なのは、スポーツの勉強だけしていればいいわけではなくて、他の勉強もしないといけない。最後にお聞きしたいのは、スポーツの勉強はみんなしていると思います。もう一つ何か勉強しなければいけないのであれば、何をオススメするのか。秦さん自身は何を勉強していこうと思っているのかを教えてください。

秦:ぶっちゃけていうと、数字ですね。数的根拠を持って裏付ける。これがないと、どんな熱意を持っても、声を張り上げても、思いをぶつけても、最後は「じゃあ根拠は何なの?」ってなります。提案の中で証明できる数的根拠を持っていないと、どんなに夢物語を語っても、相手にとっても失礼になるケースもあります。ロジカルに何のためにどういう効果があるのか。これは、不可欠な要素になります。数字は嘘をつかないので、どう組み上げるか、単純に経営の数字だけではなく根拠ある裏付けでも人口でもいいんですが、賛同して頂ける方にギブアンドテイクになるので、重要です。

岩崎:今の話をまとめると、統計学を始めとして、数学を基礎知識として持っていた方がいいんじゃないのかと。『もしドラ』はダイヤモンド社から出ているんですが、そのダイヤモンド社から出ている『統計学が最強の学問である』(西内啓・著)。まあまあ売れたと言ってはアレですが、結構売れた本があるので(笑)、帰りに本屋でお買い求め頂ければと。今日はもしドラの編集者さんが来ているのですが、その人がすごく喜ぶんじゃないかな。営業部長なのでそれくらいしてくれると思うので、ここで第一部は終わりにしたいと思います。

<第2回へつづく>

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.