「普通のジムならとっくにクビだ!」

「明日は心して来い! お説教だ! 何時間もお説教だ!」

「普通のジムならとっくにクビだ!」

スターロードボクシングジムの鳥海義仁会長は、試合後の控室で言った。

10月4日、後楽園ホールで東日本新人王の準決勝戦が行われ、ジム所属の渡久地辰優(とぐちたつひろ)選手は、見事にKO勝利をおさめたというのに、だ。

 
<ライトフライ級4回戦>
渡久地辰優(スターロードジム)【2回1分54秒TKO】木橋拓也(上滝ジム)
連打の末、レフェリーが間に入り、2ラウンドTKO勝ち。これにより、東日本新人王の決勝戦にコマを進める。

画像: ※写真は本人提供

※写真は本人提供


控室での会話は続く。

会長:「練習嫌いでさ、走らないでさ、毎日たたき起こしているよ! 足が痛えだの、滑った転んだだの、ホントどうしようもない…。今日だって、試合前にきちんと言われた食事を取れよと言ったら、でたらめな食事。……ウソばっかりついてるから逮捕されそうだって、書いといて」

ゆるすぽ編集部:「ウソつきなんですか?」

渡久地:「はい、そうです」

会長:「自分でも言ってるからよ。お前は(自分がウソついたことを)正直に言うから」

渡久地:「はい。言わないと、隠していても、すぐバレて……」

会長:「すぐバレちゃうよ! 俺もボクサーだったから分かるんだよ!」
 

ウソつきなボクサー、渡久地辰優。

団体競技が嫌いという彼は、小学校6年生のときに、世界チャンピオンにしてくださいと親がジムに連れてきた。もともとボクサーになりたかったわけではない。「自分的には、やりたいスポーツがなくて…、親に頼んだらここがいいんじゃないかって。そしたらボクシングジムだった。で、体験したら楽しいなあって。じゃあ、やろうって」と言う。
 

「けっこうやらかすんですよ」

話は、試合後の控室に戻る。

普段、彼を教えている竹内トレーナーが笑いながら教えてくれた。

トレーナー:「けっこうやらかすんですよ」

渡久地:「やらかしっぱなしです……」

ゆるすぽ編集部:「あんまり、言われたことが耳に入ってない感じなんですか?」

会長:「いや、そのときは入ってるよ。涙流して、すいません、ちゃんとやりますって。どこが悪かったんだって聞くと、ちゃんとぜーんぶ分かってる」

やらかし、怒られ、涙し、反省する。なのに… 

トレーナー:「あんなに怒られて、続けるお前もスゲエよ! ケロッとしてさ(笑)。怒られてもさ、すぐ忘れるっていうか……。切り替えが、ある意味上手いんだよ」

つまり、練習をサボり、ウソをつき、怒られ、涙し、反省し……、そして忘れる…

この切り替えの早さが、強さのワケという感じだろう、……か!? それは素質でもあり、ホントにある意味すごいボクサーだと感じる。

 
実は、試合前にトレーナーに話を伺うと、こう言っていた。

「15歳で初めて彼を見たときの印象が忘れられないんですよ。しっかりナックルで当てる! 当て感が良いんです! それから一戦一戦進化してるから、(今日の試合も)まあ楽しみです。あと、勝負どころを覚えてきたので、ここだってところでイケるんじゃないかと。ジムとしては期待している選手です」

結果、2ラウンドTKO勝利。戦績は、8戦6勝2敗。6勝のうち5つがKO勝利。

以前の試合では、失神KO勝ちで相手を病院送りだったり、相手の顎を2箇所折った勝ちもあったという。ナックルの当て感が良く、仕留める感覚もできてきている。見たところ、踏み込みの変則的なステップも魅力である。しかも、軽量級なのに圧倒的なパンチの破壊力は、他を寄せ付けない。

負けたプロデビュー戦も、勝っていた試合だったと、関係者は言う。アマチュア経験の全く無い彼が、アマチュアチャンピオンクラスの選手を相手に、しかも東京ではなく、敵地でだ。

しかしながら、「問題は、走っていないんだよ。高性能なマシンガンをもっているんだけど、タマが入っていないんだ~(笑)」と、彼のスタミナ不足を会長はこう例える。会長の言う通り、今日の試合は明らかにガス欠であった。

渡久地:「スタミナが限界超えてて…、もう相手はフラフラだし、早くレフェリー止めてくれないかなあって……」

彼と話していると、なぜだか憎めない可愛げを感じる。一方で、ボクサーに必要なストイックさは、全く感じられない……。でも、この舐めた感じというか、いや不思議な感じというか、…なんだかよく分からない感覚を、なぜだか肯定はしたいと思う……、のだ。

「全日本を取るつもりでやります!」

最後に決勝戦のコメントを求めてみた。

「次も頑張って、自分の中ではKOで勝ちたいです。自分の目指すところは、全日本新人王なんで。全日本を取るつもりでやります!」

19歳の少年は、試合に勝った嬉しさと、自分への期待を、こう語った。

ただ、どんな競技でもそうだが、生死を感じながら臨むボクシングならなおのこと、練習でウソをついて勝てる世界ではない。

しかし、このウソつきなボクサーが、有言実行するシーンを見てみたいと、なぜだか……、素直に……、思った……。

私は、決勝の戦いも追いかけることに決めた……。


▼次戦、東日本新人王決勝

2016年11月13日(日)14時00分開始/後楽園ホール
ライトフライ級4回戦(48.9kg) 郡司 勇也(帝拳ジム)vs 渡久地 辰優(スターロードジム)

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